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札幌簡易裁判所 昭和33年(に)3号 判決

請求人 中井義夫

決  定

(請求人氏名略)

右の者より同人が道路交通取締法違反罪によつて昭和三二年一月一一日札幌簡易裁判所で略式命令によつて罰金二、〇〇〇円に処せられた確定裁判に対して再審の請求があつたので検察官の意見を聴いて次の様に決定する。

主文

本件再審を開始する。

理由

請求人の再審請求の理由とするところは請求人は昭和三二年一月一一日札幌簡易裁判所で請求人が酩酊運転をしたと言う事実に対して道路交通取締法によつて略式命令で罰金二、〇〇〇円に処せられ右略式命令は同年二月一四日確定したが右犯罪は真実は柴田俊一なる者の犯行であつて柴田俊一は請求人の雇主である関係上請求人が右犯行を自己の犯行として身替りになつて処罰をうけたものであるが真実は請求人の犯行ではない、そのため請求人は昭和三三年六月二〇日札幌地方裁判所で犯人隠避罪により懲役六月二年間執行猶予の判決をうけ右判決は同年七月五日確定するに至つた、そこで右道路交通取締法違反の確定裁判に対して再審を請求すると言うに在る、

札幌簡易裁判所昭和三一年略第六一五九号請求人に対する道路交通取締法違反被告事件記録並びに再審請求書添付の略式命令謄本によると請求人は昭和三二年一月一一日同庁で略式手続によつて請求人は酒に酔い正常な運転ができない虞があるにも拘らず昭和三一年九月三一日午前一時五〇分頃札幌市菊水北町八丁目附近道路において貨物自動車札一あ二二四一号を運転して無謀な操縦をしたものであると言う事実に対して道路交通取締法第七条第一項第二項第三号第二八条第一号を適用されて罰金二、〇〇〇円に処せられ右略式命令は昭和三二年二月一三日の経過によつて確定したものであることが認められる。

右記録と札幌地方裁判所昭和三三年(わ)第一三八、一三九号柴田俊一に対する道路交通取締法違反、犯人隠避教唆、中井義夫に対する犯人隠避被告事件の確定記録並びに再審請求事件添付の判決謄本によると請求人が前記略式命令により処罰された犯行は真実は柴田俊一の犯行であつて柴田は右酩酊運転のため道路の電柱を折損すると云う事故を惹起したが柴田俊一は当時昭和三一年二月頃の居眠り運転事故により貨物自動車の運転免許を取消され運転資格がないのに貨物自動車を運転していたこと又運転免許取消処分により請求人中井義夫を運転手に雇入れ北自運輸株式会社の名義を藉りて運搬業を営んでいた様な関係もあつた為前記酩酊運転の事実が知れると北自運輸株式会社から名義の貸与を取消され運搬業を営むことができなくなる懸念があつたため右酩酊運転事故を再審請求人中井義夫が惹起したことにすれば右名義の貸与を取消されることもないだろうと考え右事故直後請求人に右事情を打明けて身替りを依頼し請求人もこれを承諾して関係者とも打合せをとげた上茲に請求人は自己が酩酊運転をして電柱を折損したと警察官に虚偽の自白をし爾来取調官に対し請求人も柴田俊一も右虚偽の事実を供述し前記略式命令を請求人がうくるに至つたものであること、しかして右略式命令をうけた後中井義夫は自己の有する第二種運転免許を取消されるに至り生活に困りその保障を柴田俊一に相談した結果柴田はその生活の援助をすることを承諾したが時日を経過するに従つて柴田は右援助を快しとしない態度を示し始めたので請求人は茲に警察官に対し前記真実を申告し又柴田俊一も自己の犯行であることを認めその結果柴田俊一は前記酩酊運転の事実と犯人隠避教唆罪により請求人は犯人隠避罪により昭和三三年六月二〇日札幌地方裁判所において有罪の判決をうけ右判決は確定するに至つたことが認められる。

以上認定の事実関係からすれば右は刑訴四三五条六号に所謂有罪の言渡しをうけた者に対し無罪の言渡を為すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当するものと思料されるから請求人の請求を理由ありと認め刑訴四四八条によつて主文の通り決定する次第である。

(裁判官 大池一則)

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